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コーパス・グラインダーズ (Co/SS/gZ) @ 名古屋ハックフィン 2016.12.17

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2年ぶり、「聖地」名古屋への再降臨
フォトレポート @ 名古屋ハックフィン 2016.12.17

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— set list —
(ノイズ) / PULSE GHOST / Ne/H/eL / COBRA / MONEY / OGRE / Crystal Damon / J / SILVER / PARANOGUN! / Feedback Magie / GOLD YOUTH / In ‘n’ Out of Grace

— encore —
BAT

–>テキストレポート「交差する『あれから』の道」 @ 名古屋ハックフィン 2016.12.17

–>フォトレポート:射守矢雄と平松学

–>フォトレポート:ソシテ(SOSITE)


コーパス・グラインダーズ (Co/SS/gZ)、ソシテ (SOSITE)、射守矢雄と平松学 @ 名古屋ハックフィン 2016.12.17

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交差する「あれから」の道
テキストレポート「交差する「あれから」の道」 @ 名古屋ハックフィン 2016.12.17

Co/SS/gZ

 3段積みのマーシャル20スタックを全台鳴らす「拷問音響機構」と題された爆音ライヴを成功させた3週間後、コーパス・グラインダーズ(Co/SS/gZ、以下コーパス)は約2年ぶりとなる名古屋でのライヴを行った。コーパス主催で行われたこの公演の告知チラシには「射守矢雄榎本是朗大地大介加倉ミサト小松正宏境めぐみ名越由貴夫平松学」のタイポグラフィーが紙面いっぱいにレイアウトされていた。この文字列の中から正しく人名を抜き出し出演バンド別にグループ分けせよ、と言わんばかりのデザインである。正解は射守矢雄と平松学、ソシテ(SOSITE)、コーパス。同時に誰もが思い浮かべるのが、ここに記されていない、射守矢と小松とともにブラッドサースティー・ブッチャーズを成し、かつ、コーパスのメンバーだった「吉村秀樹」の4文字なのだろう。

射守矢雄と平松学

 先発はブッチャーズの射守矢とファウルの平松、ふたりのベーシストによるインスト・ユニット、射守矢雄と平松学だった。ステージ中央に置かれたバスドラムをはさんで、フロアから見て左に射守矢、右に平松がベースを構えて向かい合う。シンプルかつシンメトリーな配置が目を引くが、演奏が始まれば、お互いのゆるぎない個性が絡みあい、重層的かつアシンメトリーなアンサンブルが紡がれていく。この日は中央奥にヴァイオリニストの斉藤裕子(アコースティック・ダブ・メッセンジャーズ)が立ち、「センボウノゴウ」以外の曲で共演した。寡黙なベーシストふたりが創り出す物語性のある奥深いサウンドに、ヴァイオリンのやわらかな音色が豊かな彩りを添えていた。

 平松がゆったりとリフを奏でるなか、射守矢がフィードバック音を自在にコントロールし、曲調が広がりを見せていく「キング」から始まった。基本的に平松の奏でるリフが曲の表情を決め、ギター・アンプにベースをつないだ射守矢が、ギター・ソロ的にベースを歌わせていく。

 ブッチャーズとファウル、両バンドのファンにはたまらない顔合わせであるだけでなく、バスドラムによってリズムが加わる場面や、ふたりの奏でるフレーズがユニゾンになる場面など、要所で見せ場が盛り込まれている。ラストの「スモール・ワールド」は射守矢のベースの枯れた哭きっぷりが渋い。後半は曲調が変わり、ふたりが交互にバスドラムを踏む。平松がバスドラムでリズムをとっているときは射守矢はメロディーを鳴らし、射守矢がバスドラムを踏んでいるときは平松がドライブ感とともにグイグイと迫るリフを奏でて、よりバンド的なアプローチを見せていたのが面白い。ふたりで呼吸を合わせて迎えたラストまで、観る者を魅了し続けていた。

SOSITE

 二番手は加倉ミサト(Gt/Vo)と小松正宏(Dr)によるソシテ。ステージ向かって右に加倉が立ち、左に小松のドラムセットが置かれる。清楚な黒のワンピース姿でひらりひらりとした手つきでコードを鳴らす加倉のたたずまいは、可憐そのもの。彼女の透明感に溢れたボーカルが入る曲は、フロアに爽やかな心地よさをもたらす。一方、インスト曲ではギターから立ち上る変拍子と不協和音がポスト・ハードコア直系のテンションを漂わせ、一筋縄ではいかない通好みの魅力をたたえている。

 パリッとしたタイトなリズムを繰り出す小松のドラムは華があり、加倉のギター、曲の緩急に合わせて多彩な表情を見せ、職人的な巧さも感じさせる。「カッコウ」ではその名のとおり、カッコウの鳴き声を想像させるストイックなリフがダイナミックに展開し、小松のドラムソロがカタルシスを呼ぶ、最大のハイライトとなった。

 加倉がイントロをやり直すと小松が「どうしたミサト?」と声をかけたり、曲間に「チューニング大丈夫?」と小松に言われ、加倉がニッコリ笑ってチューニングを始めるやりとりも微笑ましい。小松はソシテ以外にもクリプト・シティ、フォー(FOE)で活動し、加倉もソロ・アーティストとして活動している。清音と濁音、繊細さと大胆さ、ふたりの個性がスリリングに融合していく様は、ソシテならではの持ち味と言える。気負わないたたずまいながら、鮮烈な印象を残してコーパスへバトンを渡した。

Co/SS/gZ

 セッティングを終え、榎本是朗(Gt/Vo)がステージに登場するなりギター・ノイズを発すると、空気が一気に引き締まる。「聖地」名古屋ならではの歓迎ムードで迎えられたコーパス。「パルス・ゴースト」のイントロから是朗はギターをかざし、名古屋ハックフィンへ再降臨の狼煙を上げる。「ニールヘル」〜「コブラ」へとフロアは大きく揺れ、キメどころでは是朗のシャウトともにフロアから勢いよく拳が上がる。冒頭3曲を終えると一段と大きな歓声が沸き上がった。観客の歓声も拍手も、軒並み爆音とノイズに飲み込まれた「拷問音響機構」とは対照的だ。

「愛と平和はクソッタレだ。カネが全てだ! 働け!」

 ヤケクソなんだか真っ当なんだかわからない、しかし説得力満点の是朗の決め台詞からの「マネー」、そして「オーガ」へ進む。「拷問音響機構」を経て、ツイン・ドラムのシンクロ感がアップしていたり、名越由貴夫(Gt)が発するノイズからイントロに突入する構成がいっそう鬼気迫るものとなっていて、バンドとしての前進を実感する。

「クリスタル・デーモン」は大地大介(Dr)と是朗がメロディアスに歌う前半から、是朗の激しいギターソロと名越の重低音リフが迫りくる後半へと展開する。曲調の転換時の大地と堺めぐみ(Dr)のツイン・ドラムも効いていて、再始動後のコーパスの特性を存分に生かした大曲に仕上がっている。コーパスはライヴでの音量も、「鬼」の異名にふさわしい気迫も、何もかもが圧倒的なのだが、曲にはどれも一聴した観客の心を鷲掴みにする、キャッチーさが宿っている。この曲も名古屋初披露であるにもかかわらず、他の曲に引けを取らない大喝采が起こっていた。

Co/SS/gZ

 大地が息を切らしながら「スネアをドラムのところに返してください。あと体力を。失われていく体力を返してください」とPAに注文し、笑いが起こった曲間を経て、「J」。間奏では名越がギターで発する効果音に合わせて大地がロボット・ダンスをして、大地と是朗がフロアに降りていく。観客の手拍子が沸き起こるなか、大地はバーカウンターからトレーに乗せたドリンクをロボットのような仕草で運び、是朗と最前列付近の観客に振る舞う。ドリンクを一気に飲み干した是朗は、フロアで笑顔の観客に囲まれながらギターソロを弾いてステージに戻っていった。

是朗「大地くんの『お茶飲みからくりロボット』でした!」
大地「お前もからくり人形にしてやろうか! むっはっはっは!」
是朗「名古屋だけだよ。東京じゃできないんだよ。みんなシーンとするから」
大地「あー、のびのびできてよかった! ありがとう名古屋! 最高っす!」

「J」が終わってからの是朗と大地のやりとりに、観客も大喜び。「シルバー」のあとには、是朗から「次のアルバムが出て名古屋に来たとき、『拷問音響機構』、ハックでやることになりました。さっき店長にお願いされたんでやります」との宣言もあり、一段と大きな歓声が上がっていた。「札幌でもやって」の声には、「札幌はね、マーシャル3段積み20台ないんだと思うんだよね。それをレンタルできるなら。それが全て」と答えていた。マーシャルさえ用意できるなら、「拷問音響機構」はどこでも実現可能ということか。例えばマーシャルの壁を従えてロックフェスで演奏するコーパスなんて、さぞかし映えるだろうし絶対盛り上がると思うのだが、どこかに粋なフェス主催者はいないものだろうか。

Co/SS/gZ

 7インチもリリースされ、再結成以降の代表曲と言える「パラノガン!」から、凄みのある重低音リフ、是朗のアクションを交えたパフォーマンス、名越のギターソロと見どころ満載の新曲「フィードバック・マギー」。そして疾走しつつラストへ向けて白熱していく「ゴールド・ユース」まで、たたみかけるように突き進む。最後はゲスト・ドラマーに小松を迎え、1年前の「極東最前線」出演時と同じように大地がギターを構えてセンターに立つ。

大地「小松! お前のドラムは最高だ!」
小松「大地、お前には負けるよ!」
大地「まあな! なんつって! やれんのか?」
小松「やってやるよ!」
大地「よっしゃあ! 行くぞ!」
小松「行くぞ!」

大地と小松によるミニコント(?)からの「イン・アンド・アウト・オブ・グレース」で盛り上がりは最高潮を迎えた。演奏が終わったあとは、フロアが大地コールに沸き、ステージから是朗と名越が観客に日本酒を配り、是朗はこの日の出演者と観客に礼を述べる。

Co/SS/gZ

「ごめんな。みんなが期待したもんはやらなかったけど、もう、そろそろいいと思うんだ。わかる? みんなあれから別々の道を行ってるってことで、3バンドで来ました」

「みんなが期待したもん」とは、‘14年5月のコーパスの復活ライヴで披露された、射守矢と小松との共演のことを指す。観客にわざわざ謝るのも、吉村秀樹と活動を共にした者が「あれから別々の道を行ってる」ことをライヴで示すのも、それを’97年に吉村がコーパスを脱退した地である名古屋でやるのも、是朗の律儀さのあらわれであり、思いの深さが伝わってくる。

「ハックフィン、35周年おめでとうございます! まだあるよ、メリー・クリスマス! 次いくよ、あけましておめでとうございます! これが一番大事、名越由貴夫、誕生日まだ早いけどおめでとう! 乾杯!」

 是朗の音頭とともにステージ上の出演者とハックフィンの店長、フロアの観客は何度もコップを掲げて乾杯。そして、観客から熱烈なアンコールを求める声が沸き起こり、予定になかった「バット」でライヴを締めくくった。コーパスのありったけのサービス精神に応えて、フロアからは無数の拳が掲げられ、サークル・モッシュが渦巻いたのだった。

Co/SS/gZ


— set list (射守矢雄と平松学) —
KING / ulala / Mrs. JASCO / センボウノゴウ / Octopus / groomy… / small world


— set list (SOSITE) —
暮レ子 / コウモリが眠る頃 / 不透明びより / カッコウ / 塀を越えたら / 岸頭にて / 郷


— set list (Co/SS/gZ) —
(ノイズ) / PULSE GHOST / Ne/H/eL / COBRA / MONEY / OGRE / Crystal Damon / J / SILVER / PARANOGUN! / Feedback Magie / GOLD YOUTH / In ‘n’ Out of Grace

— encore —
BAT

–>フォトレポート:射守矢雄と平松学

–>フォトレポート:ソシテ(SOSITE)

–>フォトレポート:コーパス・グラインダーズ(Co/SS/gZ)

ザ50回転ズ @ 十三ファンダンゴ 2016.12.18

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10年前よりもたった今!
テキストレポート – 「10年前よりもたった今!」@十三ファンダンゴ 2016.12.18

50回転ズ

 今夜の会場は、大阪は十三にある名ライヴハウスのファンダンゴだ。会場中にベタベタと貼られたバンドのポスター、周囲を怪しく照らす赤色の光、中央に向かって張り巡らされた世界中の国旗。ステージ奥に描かれたジャクソン・ポロックを感じさせる乱雑なイメージもたまらない。何もかもがロックンロール感満載でワクワクしてくる”場”だ。

 そして、今夜ここに登場するのは「大阪ロックンロール少年院」から飛び出した真正ロケンロー・トリオ、ザ50回転ズだ。アメリカはサンフランシスコでレコーディングしたデビュー・アルバム『50回転ズのギャー!!』のリリースから10周年を迎えた彼ら。10周年の記念ということで(図々しくも)古巣のワーナーミュージック・ジャパンに連絡を取り、10年前の自分たちに勝つべく、こだわりにこだわってリマスターを敢行(これは必聴の出来!旧盤と聴き比べることをお勧めします。鳴りが全然違うから!)そして、当時と同じ鮮やかな青を再現したジャケットを仕立て、2005年に初の海外ライヴを行った場所であるニューヨークのPianosから原点回帰ワンマンツアーをキックオフした(ニューヨークでの珍道中の模様はこちら

 そして、今夜がツアー・ファイナルだ(当然のごとくソールドアウト)。ロックンロールの雷に打たれた3人組が、雨の日も風の日も、日本中、いや世界中にその雷を轟かせて続けて来た。素晴らしいことだ。ロックンロールの可能性を信じきった奴らで今夜も会場はパンパンなのだから。そう、「爆弾もミサイルも必要ないさ、お前がいるから」って奴らでね。みんなバンドTにタオルを首にかけ、準備万端な出で立ちでまだかまだかと開演を待ちわびているのだ。

50回転ズ

 会場が暗転し、銀行強盗的な覆面が目立つザ・フジサンズと名乗る3人組が二階の楽屋から駆け下りてきた。白黒のボーダーにライダースを羽織ったまんまラモーンズな出で立ちでキメ、のっけから「カリフォルニア・サン」を投下し会場を沸かせる。倍速でかっ飛ばすアンダートーンズの「ティーンエイジ・キックス」やゴキゲンなザ・ハヴノッツの「アイ・ヘイト・ミュージック・スター」などマイクの出音が歪んでいて荒々しいガレージ・ロックな質感フル満タンであっという間に駆け抜け、ザ50回転ズ登場の花道を作るべくフロアを熱気ムンムンな状態に仕上げた。

「オーイ!ダニー!、ドリーにボギー!待ってんでー!!」と叫ぶファン。ステージが暗転して、お馴染みのオープニング曲、ドクター・フィールグッドの「ライオット・イン・セル・ナンバー・ナイン」のいなたいフレーズが流れる中、かの青いジャケットと黒パンツでビシッときめたボギー、ドリーにダニーのお三方が順に登場。ダニーが「飛ばすぜ、ファイナルー!」との一声から「50回転ズのテーマ」に「マブイあの娘」とのっけからガンガンにブッ飛ばす。「大丈夫?」と心配してしまうほどに頭を振りまくり、あらん限りに飛び跳ねステージを縦横無人に動きまくる。「全曲再現!最後までよろしくー!」とドリーが歌う切ないパワーポップ「ぬけがらロック」がこれまた最高。ミドルテンポなリズムに合わせ手を振り上げ、左右に揺れるオーディエンスを見るだけで幸せな気分になってしまう。「紹介しましょう。ベースのドリー!」とはじまったザ・マミーズのインスト曲「ザ・バラッド・オブ・アイアン・アイズ・コディー」。ドリーがベースをバキバキとかき鳴らし、爆音が耳と全身に迫って来る。特にと心地よく響き渡る。重低音を存分に浴びるのに、この会場の音響はうってつけだ。

50回転ズ

 続くは初期衝動感がハンパない「たばこの唄」。個人的に50回転ズの中でも最も好きな曲のひとつだ。何よりもダニーの「俺がギターじゃー!」からのキメッキメのギターソロのかっこよさにゃ即死必至。これを聴けただけでも来た甲斐があるというもんだ。「チェーンスモーカー、ドリー!こいつは禁煙なんかしないぜー!!」と歌詞のストーリーどおりに不良少年よろしく締めくくった。

 ブルージーなセッションと10年間の道のりが込められたダニーの語りが最高だった「お前のせいだぜ」から「天王寺エレジー」の流れ。いずれも昭和歌謡を感じさせるいなたさがたまらない名曲だ。ディープ・パープルの「ブラック・ナイト」のフレーズといった遊びを入れながら情感たっぷりに演奏する。かつてはハードロックやパンクといったどストレートなロックしか受け付けなかった四角四面な筆者。これらの曲を聴いた時はその他の曲との違いに「なんじゃこのダサさは?」と思ったもんだが(すみません!)、今なら理解できるこのニュアンス、かっこよさ。爆音が耳から入り込んで心に染み渡る。髪の毛は薄くなった(!?)が、メガネは相変わらず曇ったままギターをかき鳴らすダニーのかっこいいこと!ダニー自らが公言したとおり、10年前のあの日より今ここにいる50回転ズが死ぬほどかっこいいってことがよくわかる。

「おまちかねのロマンチックなナンバーを1曲!」とはじまった「アタイが悪いのサ」。サム・クックと昭和歌謡をごった煮したような極上の50回転ズ節のR&B。泣きのギターソロが雄叫びを上げる。ラモーンズなドカドカビートがはじまれば、サビでの高らかなドリーのシャウトが最高な「Saturday Night」だ!今日が日曜日で明日から日常がはじまるという現実に直面しつつもこれでもかと拳を振り上げ暴れるクラウド。ここ一番の盛り上がりを見せて「ありがとー!気ぃつけて帰ってなー!良いお年をー!!」と『50回転ズのギャー!!』の完全再現部が完了した。あらためて、このアルバムの素晴らしさを堪能。彼らのロックのいや音楽に対する愛がこれでもかと詰め込まれた宝箱のようなアルバムだ。

50回転ズ

 鳴りやまないハンドクラップにすぐにメンバーが再登場。「流石にこれじゃ終わりません!10周年、10年前の曲全部やるぜー!!」とキャッチーな「マイクチェック」を皮切りに、第2部がはじまった。フロアにギターを突き出して繰り出すギターソロが秀逸だったインストナンバーの「ダンスのブルース」。冒頭のカウントが十八番だった愛すべきディーディー・ラモーンに捧げられた軽快な「Mr.1234man」と激しいテンションで立て続けに披露。今夜、まだまだ奴らは止まらない。「海賊たちのララバイ」のOiパンク、1976年感プンプンな「1976」(まんま!)の失踪するパンク・ビートは会場を一体にさせるのだ。8ビートって、やっぱ最高だな。チャイムのギター音からはじまるポップな佳曲「放送室のメロディ」の青春節満載なキラキラさに目頭が熱くなる。「今夜はこれでお別れしましょうー」と今夜二度目の「Thank You For RAMONES」を全力で出力。「全部出し切るってほんと気持ちいい!」てな感じの締めが最高だ。「ありがとう大阪!ツアーのさいごはやっぱりここに限るねぇ!」とドリー。ラストお決まりの「おさらばブギブギ」で、楽し過ぎるコール&レスポンスも飛び出し、会場全体が文字通りロックンロールで一体となった。この、どこまでもお決まりで、いつ観ても決してファンを裏切らないステージ。これが今の50回転ズだ。もはや、かつてのラモーンズの域に達しつつあるんじゃないか。「ありがとー!20周年で会いましょう!」とすがすがしくステージを後にした。

 それでも鳴り止まない歓声に「しゃあねぇなあー!」とメンバーが再び戻ってきてRCサクセションの超名曲「雨上がりの夜空に」を投下した。かつて忌野清志郎さんが亡くなった2009年5月2日の翌々日に開催されたイベント(ロッケンロー・サミットなどを手掛けるYOU-DIE!!!がプロデュースしたコンピレーション・アルバム『69★TRIBE -Cupid Honey Traps』のリリース記念イベントだった)で清志郎さんに捧ぐと披露された感動の光景を思い出し、またしても目頭が熱くなる。本物の敬意が込められたこの名曲のカバーに心打たれないはずがない。「俺たちの10周年に付き合ってくれてありがとー!まだまだ俺たちかっこよくなれるはず!!」と「グッバイベイビー」で正真正銘のしばしのお別れ。この曲で「もう行くなくちゃ、次の街まで」ともう先を見据えている彼ら。何てかっこいいんだろう。ロックンロールという可能性は、バンド、オーディエンス、関わるすべての人たちで作り、広げていくものなんだ。終演後のザ・ルースターズの「Fade Away」が熱くなった耳にどこまでも心地よく響き渡った。

50回転ズ

— Set List —

50回転ズのテーマ / マブイあの娘 / Thank You For RAMONES / ぬけがらロック / The Ballad Of Iron Eyes Cody / たばこの唄 / お前のせいだぜ / 天王寺エレジー / 少年院のソナタ / 乞食の大将 / 夢ならいいのに / アタイが悪いのサ / Saturday Night

— Encore 1 —
マイクチェック / ダンスのブル―ス / Mr.1234man / 海賊たちのララバイ / 1976 / 放送室のメロディ / Thank You For RAMONES / おさらばブギウギ

— Encore 2 —
雨上がりの夜空に / グッバイベイビー

–>ザ50回転ズ @ 新宿ロフト 2016.12.14

キャットフィシュ・アンド・ザ・ボトルメン(Catfish And The Bottlemen) @ 赤坂ブリッツ 2017.01.12

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飛躍的な成長を見せた2年ぶりの来日公演
フォトレポート @ 赤坂ブリッツ 2017.01.12

Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen
Catfish And The Bottlemen

 客電が落ち、ヴォーカル&ギターのヴァンとギターのジョニーがじゃれ合いながらステージに現れるのを見た瞬間、「何かすごい事が起こりそうだ」というワクワクした気持ちが湧き上がってきた。そして、実際に彼らは期待以上のパフォーマンスを見せてくれた。ヴァンがとにかくよく動く。客席にぐいぐい近づく、スピーカーに登る、照明を持ち上げる、などなど。初来日公演は内なる情熱を抱えつつ手堅く演奏する印象だったが、今回はエネルギーを放出しまくりである。2年間でこんなに成長したんだ!という驚きと喜び、そして良いライブを見たという充実感に溢れていた。

キャットフィシュ・アンド・ザ・ボトルメン(Catfish And The Bottlemen) @ 赤坂ブリッツ 2017.01.12

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今度こそ
テキスト・レポート「今度こそ」 @ 赤坂ブリッツ 2017.01.12

Catfish and the bottlemen

 これは成長というしかない。キャットフィッシュ・アンド・ザ・ボトルメンの赤坂ブリッツでのライヴは2年のうちにここまで進化したのかという驚きと喜びがあった。2年前、代官山ユニットで彼らをみたときは、新人にしては完成度が高いステージをみせてくれたけれども、やはりまだ経験を積んでなかったと、今にして思う。

 残念だったのが、初来日と同じ年のフジロックにでられなかったことで、成長途上の姿をみせてくれれば日本での人気も変わっていたのかもしれない。それから、今回のライヴまで新しいアルバム『ザ・ライド』を作り、それが本国UKで好評で迎えられた。飛行機の問題で大阪公演がキャンセルになったのは残念だったけれども、バンドの調子はよさそうだし、期待を持って会場に向かった。

 赤坂ブリッツはほぼ満員。ステージ背後には『ザ・ライド』のジャケットと同じ尻尾をくわえたワニのイラストが掲げられている。ウロボロスの蛇(竜)に関係があるのだろうか。

Catfish and the bottlemen 始まる前は、エヴリシング・エヴリシングビートルズジャック・ホワイトストロークスなどが流れている。ディーン・マーティンエイント・ザット・ア・キック・イン・ザ・ヘッド」が流れて会場内が暗くなる。19時45分ころメンバーが登場し、「ホームシック」からライヴがスタートする。それからアンコールなし約1時間10分というコンパクトな中に非常に充実したライヴをみせてくれた。

 やはり、フロントに立つヴォーカル&ギターのライアン・エヴァン・マッキャン(ヴァン)がエンターテナーとしてのスイッチが入ったようにアグレッシヴに動き回っていた。床に置いてある照明を抱えて客席に向ける、客席から渡された日の丸をギターのジョニー・ボンド(ボンディー)にマントのように掛ける、ステージ下手のスピーカーに登る、マイクを最前のお客さんに渡す、最後にはマイクスタンドと共にアンプに登り、マイクスタンドに日の丸を掛けるなど、見た目にもお客さんたちを沸かせた。それでいて歌や演奏は怠らない。ここまで伸び伸びと動き回るようになったとは。2年前も新人らしからぬ雰囲気を漂わせていたけれども、ここまでになるとは予想をはるかに超えている。

Catfish and the bottlemen そんなバンドを際立たせているのは、UKらしいギターロックの基本を押さえつつ、そこからさらに飛び立とうとしている曲の数々。新しいアルバムよりも、前作『ザ・バルコニー』の方がより多く演奏されたのだけど、『ザ・バルコニー』はやっぱりいい曲多い傑作だったのだなと感じた。曲に静から動への起伏あり、メロディアスで印象残るサビを持つ。『ザ・ライド』からの曲もステージで演奏されると生き生きしたものになる。ライヴで生きるバンドである。

 このライヴに関しては、どれもピークといってもいいくらいずっと沸点が続いていた。特に、というのならば「7」「コクーン」「タイラント」の終盤はドラマティックにライヴを締めて、次のライヴに期待を持たせるようなものだった。短い時間だったけど十分満足した。だけど、もっと聴きたい。今度こそ体調を整え、フジロックにでることを待ち望む。

–>フォトレポート

Catfish and the bottlemen

ティコ(Tycho) @品川プリンス・ステラボール 2017.01.13

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外へ向かう音
テキスト・レポート「外へ向かう音」 @ 品川プリンス・ステラボール 2017.01.13

Tycho

 品川プリンスステラボールはかなり埋まっていた。年齢層は20~30代中心で、こざっぱりした人が多い。ネクタイを締めた仕事帰りの人がやや少なめ。外国人も目につく。会場内には落ち着いた雰囲気があって、パーティの浮かれた感じとも違う。19時30分ほぼ定刻にティコのドラマーでもあるローリー・オコナーがあらわれて、ステージ中央にある機材を操作する。まずは、ローリー・オコナーのソロ・プロジェクト、ナイトムーヴスのライヴが始まる。

「ヘイ、ガイズ」とローリーによるあいさつがあり、冒頭から2分ほどノイズが放出され、背後の大きなスクリーンにはさまざな無線パルスの波形のようなものが映し出されている。そして音楽が徐々に形を表してきてエレクトロニカなものからビートが入ってくる。キラキラした美しい電子音による40分ちょっとの旅だった。

 セットチェンジ中は大きなスクリーンに青空と白い雲を背後にした険しい雪山と氷河が映し出される。静止画かなと思ったら、手前に人らしきものがいて動いていた。

Tycho 20時30分ころスコット・ハンセン率いるティコ(スコットのMCでの発音だとTychoが「タイコ」と聞こえる)が登場する。「グライダー」から始まったライヴは、配信サービスで聴ける音源のイメージを大きく裏切らないアレンジなんだけども、バンド形式で演奏されるだけで、こんなにも印象が変わってしまうのかという驚きがあった。

 ステージには、先にでていたドラマーのローリー・オコナーを始め、ベース&キーボードにビリー・キム、中央にギター&ベースにザック・ブラウン、上手に主にキーボードでスコット・ハンセンという編成だった。スタジオで録音された既発の音源は穏やかなものだったけれども、ステージでは、もっと生々しくナチュラルでオーガニックなものである。ローリーのドラムが大活躍していてバシバシとドラムを叩いていた姿は、ほとんどロックといってもいいくらいだった。

Tycho スクリーンにはSF映画ようなの一場面(たぶん『惑星ソラリス』だと思う)や宇宙、波、砂漠、天から降ってくるたくさんの本、サーフィンなどの映像が今までのティコのアルバム・ジャケットの画像とともに映し出されていた。どれもティコの音楽と結びつき、ドリーミーな世界を作っていた。心地よい。

 アンコールは「レシーバー」と「モンタナ」。ティコの音楽は、繊細なので、内向きの音楽だなと感じていたけれども、このライヴによってティコは外に放たれる音なんだなと認識を改めるようになった。ライヴのあとにティコのアルバムを聴いてみると、ライヴで感じた生き生きとしたものもちゃんと録音物の中にあることに気づく。今度は、その体験をより広い場所で味わいたいという気持ちになった。

テキスト・レポート「外へ向かう音」 @ 品川プリンス・ステラボール 2017.01.13

Tycho

Photos by MASANORI NARUSE

モロハ (MOROHA) @ 新宿ロフト 2016.12.21

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「一番手の役割ってのは何なのか。先輩ふたりに火をつけることだと思います」
フォトレポート – モロハ (MOROHA) in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA
MOROHA


— set list —
革命 / それいけ! フライヤーマン / 俺のがヤバイ / ハダ色の日々 / tomorrow / 三文銭 / GOLD / 四文銭

–>テキストレポート「三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

–>フォトレポート:般若

–>フォトレポート:竹原ピストル

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」

般若 @ 新宿ロフト 2016.12.21

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「悪いな、音楽やりに来てねえんだ。俺、ケンカ売りに来てんだよ!」
フォトレポート – 般若 in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

般若
般若
般若
般若
般若
般若
般若
般若
般若
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— set list —
人間をきわめろ / 自己紹介 / 路上の唄 / 土足厳禁 / はいしんだ / 家族 / なにもない / FLY / 目黒川 / 関係あんの? / やっちゃった / サイン / LIFE / 世界はお前が大ッ嫌い / スーパースター / あの頃じゃねえ

–>テキストレポート「三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

–>フォトレポート:モロハ (MOROHA)

–>フォトレポート:竹原ピストル

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」


竹原ピストル @ 新宿ロフト 2016.12.21

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ステージで燃やし続ける不屈の闘志
フォトレポート – 竹原ピストル in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル
竹原ピストル


— set list (竹原ピストル) —
ドサ回り数え歌 / Forever Young / LIVE IN 和歌山 / RAIN / みんな〜、やってるか! / マスター、ポーグスかけてくれ / ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!! / カウント10 / キャリーカートブルース / 俺のアディダス / よー、そこの若いの / ちぇっく! / Amazing Grace / ファイト!

— encore —
ポエム『狼煙』 / 浅草キッド

–>テキストレポート「三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

–>フォトレポート:モロハ (MOROHA)

–>フォトレポート:般若

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」

タワーレコード新宿店18周年×宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」(竹原ピストル、般若、MOROHA) @ 新宿ロフト 2016.12.21

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三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花
テキストレポート「三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花」 – 竹原ピストル、般若、MOROHA in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 新宿ロフト 2016.12.21

MOROHA

 2016年、年末。18周年を迎えたタワーレコード新宿店と宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」が贈る、スリーマン・ライヴが新宿ロフトで行われた。出演はモロハ(MOROHA)、般若、竹原ピストル。’16年6月に取材した下北沢シェルターでの「マイセルフ, ユアセルフ」のラインナップに匹敵する、強力な布陣である。満杯のフロアの期待を受けて登場したトップバッターは、モロハ。序盤から「革命」「それいけ! フライヤーマン」を尋常ならざるテンションで放ち、3曲目の冒頭、MCアフロが観客に問いかける。

「俺たち皮切りに、残りふた組でてくるんだけれども、どんなの期待して来ました?」

「みなさん、3組でてくるって、この状況の上で、『ワンマンを3回見た』みたいなライヴが観たいのか。それとも、今日、この3組だから見れるようなライヴが観たいのか。一体、どっちですか。訊くまでもないっすよね。もちろん、この3組だから起こり得るような事件やドキドキやドラマが観たいと、そう思ってみなさん来たんですよね?」

「そのとおり!」と言わんばかりに、フロアから大きな拍手が沸き起こる。「じゃあ、一番手の役割ってのは何なのか。先輩ふたりに火をつけることだと思います」「生意気言うのが仕事だと思っております。今日の出順はカッコイイ順で決めました」と般若と竹原ピストルへの挑発の言葉を次々と放ち、さらなる歓声を呼んだうえで、キレッキレの「俺のがヤバイ」に突入する流れは鳥肌ものだった。

MOROHA

 メロウな「ハダ色の日々」と、絞り出すような声が胸に迫る「トゥモロー」では、情感をたっぷり込めたアフロのリリックに、ギタリストのUKが奏でる緻密なリフがやさしく寄り添い、コンビネーションの妙に深く引き込まれる。かすれ気味の声でのアフロの独白から始まった「三文銭」は、ギターが刻むリズムとともに駆け出していく。「28歳、3枚目のアルバムをリリース 新宿で最高のスリーマンができる!」とリリックを変えるとフロアが瞬時に盛り上がり、終わり際にUKが静かに残す余韻も格別だった。

「忘年会で忘れたいこと、忘れられないよね。しょうがないから連れていくよ。辛いことも、悲しい記憶も、連れていってやるよ」とアフロが語った「ゴールド」。「大丈夫 大丈夫」のフレーズが繰り返される瞬間、この1年に積み重なった憂いがスッと溶けていくような抱擁感がもたらされる。

「やっぱりラッパーたるもの、あれ、できなくちゃなって」

 アフロはこの日の意気込みを見事なフリースタイルで披露。勢い余って床に崩れ落ちるアフロを拍手と歓声が包み、最後の曲「四文銭」へ。アウトロでは「50分間、お付き合いいただき、ありがとうございました! どうか、また会う日まで。それぞれの人生で、命を懸けて! 命を描け!」と、渾身のシャウトが響く。ドラマチックなUKのギターに乗せて、たたみかけるアフロの叫びに、何度も歓声が沸く圧巻の締めとなった。

般若

 わずかな転換時間をはさみ、ステージが暗転して般若が登場。1曲目の「人間をきわめろ」から、ストイックな佇まいに息を飲む。「自己紹介」ではリズムに乗せてフロアが揺れ、「路上の歌」でさらに加速度がついていく。「土足厳禁」の冒頭で「悪いな、音楽やりに来てねえんだ。俺、ケンカ売りに来てんだよ!」と啖呵を切ってみせると、一層歓声が大きくなった。「はいしんだ」までを一気に駆け抜けたぶん、「家族」「なにもない」での、赤裸々に吐露されるリリックが際立ち胸に刺さってくる。この2曲では狂おしさに満ちたパフォーマンスにフロアは静まり返り、拍手することすらはばかられる緊張感が張り詰めた。

「フライ」以降は、観客とともに盛り上がる曲を次々とつないでいく。「サイン」の超高速ラップに圧倒されていると「疲れちゃった」とつぶやいて中断。ロフトにまつわる思い出を語る。

「俺、18年くらい前に新宿ロフトに、いろんな諸事情があって、ここに喧嘩しにきて、俺ら10人で素手で来て、80人くらいにぶっ潰された思い出しかないんだ。誰とは言わないけど、うん。でも結局残ってんの、俺だけだった」

 その言葉に観客が沸くなか、今度はバックトラックなしで「サイン」の後半へ戻っていく。リリックを言い切るや否や「どうすか、新宿?」とフロアを一瞥。本物のスキルとカリスマを携えるラッパーのみが持ちうる、有無を言わせない迫力がある。「ライフ」以降、「あげろ、ロフト、拳をあげろ!」と観客を煽り、フロアを大きく揺らした「スーパースター」まで、さらにエモーショナルに白熱していく。

般若

「音符も読めないし楽譜も読めないし、かじりついてここまで来たけど、本当に言い方が悪いんですけど、別に音楽をしに来てるわけじゃありません。僕は喧嘩をしに来てるつもりでいつもやっています。おっかないです、ライブやる前は。本当に怖い気持ちです。僕のこと知ってる人も知らない人も、今日初めましての人も、出口出たら忘れてやってください。たまに1年に1回くらい思い出してやってください。お願いします」

「別に深夜番組で『お前はああだ、いやお前はこう言った』とかああいう番組でやっているのはニセモンなんで。本当の顔じゃありません。こうやって目の前にいるのが本物のアレです。38年間チンポぶら下げてきた男が、ここにいます」

 抑揚をおさえた早口で語る般若は、反骨精神をのぞかせつつ、思いの外実直に映る。TV番組『フリースタイル・ダンジョン』での大物ラッパーとしての華やかなイメージを持つ観客は、この晩、彼の生身の姿を胸に刻んだことだろう。

「感極まっちゃった。本当に今、昔を思い出しちゃった」と一旦やり直したラストの曲、「あの頃じゃねえ」のクライマックスは、満場のコール・アンド・レスポンスが空間を満たし、「また来年、懲りずに映画とドラマ出ます」の言葉に歓声があがる。般若は「トレーニングしてる人、どこ?」と声をかけながら、着用していたリーボックのTシャツをフロアに投げ入れて鍛え上げられた肉体を晒し、「あばよ、二度と会わねえよ!」と、とどめの悪態をついてステージを去る。

 DJフミラッチ(DJ FUMIRATCH)がプレイするトラックが終わると、フロアから般若へ惜しみない拍手が送られた。王者の風格漂う、完璧なステージだった。フロアにはヒップホップに馴染みの薄い観客と、合いの手や声援など、般若のパフォーマンスにシンクロした熱い反応を見せる常連客が混在していたが、般若は今を限りと言わんばかりの気迫で、空間を丸ごと制してみせたのだった。

竹原ピストル

 トリを飾った、竹原ピストル。序曲としての「ドサ回り数え歌」。ギターの音色と、ザラザラとした感触と、ぬくもりをたたえた声の歌い出し。そのたった数秒で、ステージ上に竹原の存在感が生々しく立ち上る。続いた「フォーエバー・ヤング」では力強く伸びる声と、リズムをとりながらの歌唱が鮮烈に刻みつけられる。屈指の人気曲「ライヴ・イン・和歌山」は、始まった途端にフロアから歓声があがった。竹原が歌う「お前」へ向けた思いやりと「薬漬けでも生きろ!」のフレーズは、やはり何度聴いても強く心に響く。

 力強く歌われた「レイン」。観客の手拍子とともに弾むように演奏された「みんな〜、やってるか!」は、サビを竹原とともに口さんでる観客も多い。終わって観客が口々に声援(和生〜、とか、ピーちゃん! などというものも混じっていた)を送ると、「呼び名を統一してください。できれば」と返して会場は笑いに包まれる。

「ポーグスっていう大好きな外国人のバンドさんがいて、シェインさんはそのポーグスのボーカルの、酒好きタバコ好きのオジちゃんです。自分の出番前、そわそわして緊張しているときに聴きたくなるバンドなんですが」

と前置きして、「マスター、ポーグスかけてくれ」。最近できた曲だという「ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!!」が続く。どちらも竹原の極私的な一場面を切り取ったと思われる歌詞だが、実に「聴かせる」曲に仕上げられていることに恐れ入る。「ボクサーだった頃の名残みたいな曲」と語り、ハーモニカを響かせ「カウント10」。対照的に、膨大な量のライヴをこなす現在の日々を歌う「キャリーカートブルース」。「俺のアディダス」は、ライヴが佳境に突入したことを示すように、熱を帯びて歌われる。この流れで、「カウント10」で歌われたボクサー時代から燃やしてきた竹原の不屈の闘志は、いまもなお竹原の内に輝き続けていることがわかる。

竹原ピストル

 緩急たっぷり、味わい深く歌われた「よー、そこの若いの」から、「ちぇっく!」を一気に駆け抜ける。演奏が終わり、「ちぇっく!」について「ラッパーさんがマイクのチェックをすることについて、ちょっかい出してる歌ではないということを、今日は特に声を大にして言っておきたい」「先々月くらいに沖縄で地元のラッパーさんがたに絡まれ囲まれ、すごい怖い思いしたんすよ」「もしも今日を境に僕が音楽業界から姿を消したら、般若さんに刺されたと思ってください」と語って観客を笑わせる。

「うっかり気を抜けば、これが最後のステージになっても悔いはないなって、ついつい思ってしまいそうになるくらい、般若さんと共演できたこと、本当に嬉しかったです」

と般若に礼を述べたところで、ステージ袖から「そいつら(=沖縄の地元のラッパーさんがた)探して、やっときますんで」と般若が竹原へ絶妙なタイミングで声をかけ、場内が一斉に沸く。

 本編を「アメイジング・グレイス」、竹原の十八番「ファイト!」の名曲2曲で締め、大喝采の中「竹原ピストルでした、ありがとうございました! 宮川くん、いつも心臓に悪いブッキング、ありがとう!」との言葉を残して、一旦ステージを降りる。

 熱烈なアンコールを求める声援と手拍子に応え、再び登場した竹原。中盤に演奏した「ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!! 」の「友達のラッパーに韻の踏み方習ったんだ」というフレーズについて、「友達のラッパー」とは、モロハのアフロであることを告白する。

「(アフロにメールで韻の踏み方を習って)なるほどな、こういうことか、難しいな〜と思いつつも、『狼煙』というポエムを書いてきたんで、アフロ先生に宿題提出するような気持ちも込めつつ、一個ポエム読んでみようかなと」

 ポエム「狼煙」は、丁寧に韻が踏まれているが、竹原のヒリヒリとしたハングリー精神を映し出し、観ているこちらも胸の底から熱い想いがこみ上げてくる。高揚したフロアからは、1フレーズ毎に歓声があがっていた。ラップのようなポエトリーリーディングを終え、「いつの日か、俺のがヤバイ! になってみせますからね」とモロハの曲のタイトルで笑いを誘いつつ、「そんな親友、アフロに」と捧げた最後の曲は「浅草キッド」。しみじみと染み渡るメロディーと、この日の出演者3組に向けられた割れんばかりの拍手喝采とともに幕を閉じた。

 モロハの観る者の胸を締め付けるひたむきさ、般若の己を超えていく強靭な野生、竹原ピストルが全身全霊を賭けて放つ衝撃。三者三様のやりかたで「人生の戦い方」を追い求める孤高のアーティストたちがバチバチと散らす火花が火種となり、観客の心に決して消えることのない火を灯した夜。’16年の締めにふさわしい、凄まじいスリーマン・ライヴだった。

竹原ピストル


— set list (MOROHA) —
革命 / それいけ! フライヤーマン / 俺のがヤバイ / ハダ色の日々 / tomorrow / 三文銭 / GOLD / 四文銭


— set list (般若) —
人間をきわめろ / 自己紹介 / 路上の唄 / 土足厳禁 / はいしんだ / 家族 / なにもない / FLY / 目黒川 / 関係あんの? / やっちゃった / サイン / LIFE / 世界はお前が大ッ嫌い / スーパースター / あの頃じゃねえ


— set list (竹原ピストル) —
ドサ回り数え歌 / Forever Young / LIVE IN 和歌山 / RAIN / みんな〜、やってるか! / マスター、ポーグスかけてくれ / ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!! / カウント10 / キャリーカートブルース / 俺のアディダス / よー、そこの若いの / ちぇっく! / Amazing Grace / ファイト!

— encore —
ポエム『狼煙』 / 浅草キッド

–>フォトレポート:モロハ(MOROHA)

–>フォトレポート:般若

–>フォトレポート:竹原ピストル

–>特集:宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」

キングブラザーズ @ なんば 味園ユニバース 2017.01.21

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伝える為に受け渡されるもの、その正体とは
フォトレポート @ なんば 味園ユニバース 2017.01.21

キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ
キングブラザーズ

 この日、なんばの歓楽街にある味園ユニバースでは、裸絵札(2005年から活動しているハードコア日本語ラップ・ユニット)のリリース・パーティが行われた。猛者たちがノイズと爆音によってフロアを異様な雰囲気に塗り固めていく中、トリ前に現れたスーツ姿のキングブラザーズは、ひときわ異彩を放っていた。

 高いステージとフロアの間に柵などの客と演者を隔てるものはない。そこに張られていた緊迫感を帯びたやや排他的な気配を打ち破ったのは、ケイゾウ(Vo.G)のいつもより増して歪んだ凶悪なベースギターであり、売られた喧嘩に啖呵を切るかのような歌声だった。一曲目「ルル」ではマーヤ(G,スクリーム)が躊躇なく客に飛び込み、構える相手との距離を一気に縮めた。支える客に指示しながら、高速でフロアを移動させる。人の流れがとぐろを巻く。人から人へ受け渡しされていくマーヤ自身が、まるで”ロックン・ロール”の具象そのものだった。曲の終盤には、ステージ上から会場全体に広げられた彼等のテリトリーのど真ん中で「マザーファッカー!」と叫喚するマーヤのカリスマ性から人々が目を離せなくなっている、その痛快さといったらなかった。

 ケイゾウは「さぁ行こうぜ」を連呼し、続く「☆☆☆☆」「キル・ユア・アイドル」でも更に客に突き刺さすように歌い、叫び続けた。「ビッグ・ボス」では「世界一クールでビューティフルなギターを聞いてください」というMCでマーヤは踊り、飛び、汗を巻き散らしながら前のめりにギターをかき鳴らす。ケイゾウはギターを抱えたままステージから降り、肉声で客を次々と煽る。そんな中、ゾニー(Dr)はバンドのグルーヴを唯一無二の打音で操り、二人のギターリストの型破りなステージングを丸ごと受け止めるだけでなく、先陣をきりながら攻めている。魅せることを意識しているのか否か、代わる代わる見せ場をと持ち場を変えながら、決して途切れることのないグルーヴを産み出し続けることこそ、このバンドの魅力だ。

 バンドの向ける矛先が演奏中に徐々にシフトされていたことに気づくのは、最後の「虹と雲」でだった。浴びせられていた爆音のシャワーは鳴りやみ、ステージから猛々しさは取り払われた。静かに曲が始まると否応なしにケイゾウの歌声が、それまで血気盛んであった人々に広がり染まるのを感じた。曲のエンディングに向けて高鳴るゾニーの爆音と、マーヤの奏でる旋律を見せつけられると、考え尽くされたこの日のセットリストに感嘆するしかなかった。

 結界を破り、相手を呼び込み惹きつけ、最後に印籠を高々と差し出す水戸黄門よろしく、包み隠さず正体を明かす。それは、伝えたいことを伝える為の巧みな戦法だ。アウェイでのライブこそ、実は見逃せないのだと実感するに十分な時間だった。

— set list —
ルル / ☆☆☆☆ / Kill Your Idor / Big Boss / Spaceship / 虹と雲 /


 2/10(金)下北沢シェルター 宮川企画『マイセルフ , ユアセルフ』
  open18:45 start19:15
 2/11(土)高崎 club JAMMER’Sr 『NITE KLUB presents JET NITE』
  open/start16:00
 2/12(日)吉祥寺 ROCK JOINT GB 『Rama Amoeba VS KING BROS』
  open18:30 start19:00

 詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

アイス・ステーション @ 磔磔 2017.02.07 @ 渋谷www 2017.02.09-10.

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北極を愛し、温暖化問題を感じるイベント―アイス・ステーション
アイス・ステーション @ 磔磔 2017.02.07 @ 渋谷www 2017.02.09-10.

 Ice Station(アイス・ステーション)というイベントが2月7日京都で、2月9日と10日に東京でおこなわれる。紹介ページがあるのでご覧いただきたい。「ICE STATIONは地球温暖化問題に感心を寄せ、北極と音楽を愛するアーティストたちが集まるアートプロジェクト。」ということで、今回、来日するのは、グリーンランドのロックバンドであるナヌークとR.E.M.のメンバーだったピーター・バック、マイク・ミルズ、ドリーム・シンジケートのフロントマン、スティーヴ・ウイン他6名のアメリカの音楽家たちである。

 ステージの構成はナヌークで1時間、アメリカのミュージシャンたちの演奏で1時間の予定とのこと。
ナヌークって、我々になじみ薄いグリーンランドの、しかもロックバンドってどうなんだろう? と思うけど、アップル・ミュージックで検索したら難なくみつかったので聴いてみる。よく指摘されている通り、何に似ているか? と聞かれればコールドプレイに似ているのではないかと自分も思った。歌われている言葉はグリーンランド語なので、言葉はわからないけど不思議な響きを持っている。もしかすると英語圏の人には日本語のロックもこのように聞こえるのではないかと思った。北極圏の生活はなかなか想像できないけど、厳しい気候と風土からこのようなバンドがでてきたこと自体が興味深い。

 一方、アメリカのミュージシャンたちは、元ファストバックスのカート・ブロック、元R.E.M.のピーター・バックとマイク・ミルズ、そのR.E.M.のサポートをおこなっていたスコット・マッコイ、ドリーム・シンジケートのスティーヴ・ウィン、その妻であるリンダ・ピットモンである。ノルウェーでのセットリストをみると、それぞれがいたバンドの曲、R.E.M.やドリーム・シンジケートなども演奏されるし、日によってはレッド・ツェッペリンの「ホエン・ザ・レヴィー・ブレークス」やルー・リード「ウェイティグ・フォー・ザ・マン」のカヴァーも演奏される。そんななかでも、目立つのは「ザ・ベースボール・プロジェクト」の曲である。

 ザ・ベースボール・プロジェクトとは、ピーター、マイク、スコット、リンダ、スティーヴが参加している野球をテーマにしたバンドである。野球をテーマといっても、ベーブ・ルースジャッキー・ロビンソンといった往年の名選手だったり、新聞に載る成績表だったり、ベースボールカードだったり、抑えの守護神だったりと、本当に野球に関していろんなことを歌うのだ。それぞれがひいきチームを持ち、愛情の深さが感じられる。野球に関してなんで敷居が高いということはなく、R.E.M.やドリーム・シンジケートのファンなら違和感なく聴ける。曲によってはティーンエイジ・ファンクラブぽい、爽快なギターポップであると思った。せっかく日本でやるので「イチロー・ゴーズ・トゥ・ザ・ムーン」を演奏してもらいたい。

 ライヴ情報は

http://www.mplant.com/icestation/

2月7日(火)
京都 磔磔
18:00開場 19:00開演
前売チケット:¥8,500(ドリンク別)

2月9日(木)&10日(金)
渋谷WWW
18:30開場 19:00開演
前売チケット:¥8,500(ドリンク別)

当日券もあるようです。

アイス・ステーション @ 渋谷WWW 2017.02.09

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遠い国からやってきた、素晴らしい夜
フォトレポート @ 渋谷www 2017.02.09

Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
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Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
Ice Station
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 北欧から産まれた、環境問題をテーマにした音楽イベント『アイス・ステーション』が渋谷WWWで開催された。出演アーティストは、グリーンランドで国民的な人気を得ているナヌークと、R.E.M.の元メンバーを中心に集まったアメリカのミュージシャンたち。2部構成となっており、最初にナヌークが、次にアメリカのミュージシャンがそれぞれ一時間ずつ演奏を行った。

 ナヌークの曲はグリーンランド語で歌われているので歌詞の意味はわからない。それでも表情や繊細な演奏からは彼らの熱い気持ちを確かに感じることが出来たように思う。グリーンランド語の心地良い響きが美しい楽曲と混ざって、吸い込まれるように聴き入ってしまった。

 次にステージに現れたのは、アメリカのロック界で長年活躍しているベテラン勢だ。叙情的な演奏だったナヌークとは対照的にかなりリラックスした様子でライヴをスタートした彼らは曲によってリードボーカルと担当楽器を交換しあいながらこれまでのキャリアの中から軽快なロック・ナンバーを次々とプレイしていく。エモーショナルな演奏で会場を盛り上げていく様は、これぞ本場の親父バンド といった感じだ。

 音楽性が違うだけではなく来日する機会も少ないこの二組の共演は、音楽だけのイベントではない『アイス・ステーション』だからこそ実現できたのだと思う。

 

アイス・ステーション(Ice Station) @ 渋谷WWW 2017.02.09

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楽しみ、想う
テキスト・レポート「楽しみ、想う」 @ 渋谷WWW 2017.02.09

Ice Station

 2015年11月、ノルウェーの小さな町で第1回公演がおこなわれたアイス・ステーション。地球温暖化問題に関心があるアーティストが登場する。

 会場となった渋谷wwwには、アットホームな空気が流れていた。元映画館の段差があるフロアには椅子が置かれて、ほとんどの人が座ってみることができた。マーシャルのアンプ上にはゴジラやキングギドラのフィギュアが置かれる。

Ice Station 19時を過ぎるとナヌークが登場する。北極圏であるグリーンランドから来た彼らはまさにこのイベントにふさわしい。ステージには、クリスチャン・エルスナー(ヴォーカル、ギター)、フレデリック・エルスナー(ヴォーカル、ギター)、マス・ロン(キーボード)、アンドレアス・オテ(ベース)、マーティン・ジンク(ドラムス)が揃う。

 ライヴは「pinngorpoq(グリーンランド語なので読めない)」から始まる。配信された音源よりも迫力あったし、音源を聴いたときに感じた「コールドプレイみたい」というのも薄まっていた。基本はポップで丁寧なアレンジではあるけど、ところどころ荒削りなところが顔をだす。

 日本語で感謝を述べ、当日の朝に相撲部屋で稽古を見学したことを英語で語るなど、お互いを知ろうとする姿勢も好感。グリーンランドにあまり馴染みがないと思われるお客さんたちに対して果敢にも手拍子を求めたりしていた。真っ直ぐな姿勢にお客さんたちも拍手で返す。

Ice Station グリーンランド語の歌だから何をいっているのかわからないけど、ハーモニーの美しさと演奏の熱が伝わる。これで覚えやすいフレーズを連呼する曲があればなぁと思っていたら、そういえばあった。「Ai,Ai」ではサビが「アイアイー」と歌うので、声が頭に入ってくる。ここでクリスチャンが客席に合唱を求めた。フロアから戸惑いながらも声を上げてちゃんと形になった。ここまでもっていく彼らはすごい。約1時間の演奏でしっかり記憶に刻み込んだ。

 そして15分くらいのセットチェンジのあと、まずカート・ブロック(ギター)、スティーヴ・ウイン(ギター)、スコット・マッコイ(ギター)、ピーター・バック(ベースのちギター)、リンダ・ピットモン(ドラムス)が登場する。歓声が大きく上がる。

Ice Station まずは、スコットとピーターが参加しているザ・マイナス5の「ゼア・イズ・ノー・ミュージック」から始まる。途中からマイク・ミルズ(ベース、ギター)も現れる。ステージにずっといたのは、スティーヴ、スコット、リンダであとは曲によって楽器を交換し、ステージ脇に退くこともあった。大人の余裕というか、カートは見た目かなりおじさんなんだけども、元気に飛んだり動き回っていた。対照的にピーターは非常にクール。うつむいていて、体調でも悪いのかと思うほどだったけど、時折口を閉じたままニッコリしていたので楽しんでいるようだ。

 それぞれ自分たちの曲の他に、カート以外のメンバーが参加しているベースボール・プロジェクトも数曲演奏された。名前の通り野球をテーマにしたバンドで、歌われる内容も野球についてである。客席に日本ハムファイターズのユニフォームを着た人がいて、リンダが「ダルビッシュがいた」と指摘してからダルビッシュについてメンバーたちのお喋りが始まっていた。アメリカにはジョン・フォガティの「センターフィールド」やジョナサン・リッチマンの「アズ・ウィー・ウォーク・トゥ・フェンウエイ・パーク・イン・ボストン・タウン」など良質な野球ソングがあるけど、それを凝縮したようなものだ。曲調はティーンエイジ・ファンクラブやウィルコ(スコットとジェフ・トゥイ―ディは一緒に仕事したことある)を思わせるギターを中心にしたロックだ。

Ice Station 歌詞もメンバーたちそれぞれのヒーローである選手についてのもの。スコットが「サンフランシスコ・ジャイアンツの曲、読売ジャイアンツじゃないよ」と演奏された「パンダ・アンド・ザ・フリーク」ではおそらく歌詞を変えて「オーサダハル」という名前も登場した。大人たちが大好きな野球について伸び伸びと歌っている姿は、『はだしのゲン』の中沢啓治が大好きな広島カープのことだけを描いた傑作『広島カープ誕生物語』を読んだときの爽快感と重なるところがある。

 本編最後はR.E.M.の「ドント・ゴー・バック・トゥ・ロックヴィル」で締め、やっぱりこれが目当ての人が多かったようで大いに盛り上がった。そして、アンコールに応え、3曲。さらにもう1回アンコールに応えステージに戻って盛り上がったのだった。

Ice Station

写真は2月9日公演のものを使用しています。

–>フォトレポート

トラヴィス (Travis) @ ゼップ・ダイバーシティ 2017.02.14

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いつもの贈り物
テキスト・レポート「いつもの贈り物」 @ ゼップ・ダイバーシティ 2017.02.14

Travis

 会場に入ったときにはピーター・ゲイブリエルの「スレッジハンマー」が流れていた。懐かしいと感じていたところ、ライト・セッド・フレッドアイム・トゥ・セクシー」に変わってちょっと笑った。すると続けて「ドント・トーク・ジャスト・キッス」になって、立て続けにライト・セッド・フレッドという選曲にこれは笑わせてリラックスするということなのかな? と思う。その後しばらく流れていたのは、70~80年代に流れていそうなディスコの曲で、あんまりトラヴィスのキャラ的に合わなさそう。そしてコミュナーズの「ドント・リーヴ・ミー・ディス・ウェイ」までかかるという。みんな仲良しだしメッセージなのかな? と思ったら19時13分ころ場内が暗くなり、スティーヴ・ライヒディファレント・トレインズ‐アメリカ‐ビフォア・ザ・ウォー」でメンバーが登場する。

Travis ステージには、新しいアルバム『エヴリシング・アット・ワンス』のジャケットと同じように高層ビルのフィギュアがいくつか置かれている。隣に人が立つと特撮映画のようにみえる。ステージ下手から、ベースのダギー・ペイン、ヴォーカルとギターでフラン・ヒーリィ、ギターのアンディ・ダンロップ、奥にドラムスでニール・プリムローズといつもの並び。

 まず最初の曲を演奏しようとしたら、出だしをミスしたらしく、苦笑いでやり直し「エヴリシング・アット・ワンス」でライヴは始まった。

Travis すでに20年のキャリアを重ねるトラヴィスにはさまざまな定番があり、ステージ脇にバンジョーが用意されたら「シング」、「ホエア・ユー・スタンド」ではフランがフロアに降りてお客さんたちのなかで歌う、「クローサー」では大合唱を促す、「フラワーズ・イン・ザ・ウィンドウ」ではフランひとりマイク無し歌う、新たな定番となった「マグニフィセント・タイム」では振付の指導がありみんなでそれを踊るというように、「いつもの」が提供される安心感がある。ファンもよく心得ている人が多くてきっちりと応え、フロアは盛り上がりをみせた。

Travis もちろん、そうしたことをしなくても盛り上がるだろう。シンプルによいメロディの曲がよい声で歌われ、盤石の演奏で楽しめる。トラヴィスはそれを裏切らずに続けてきた。目線がファンとともにあり、その先にファンサービスがあるのだ。その視点があるからフランがカラオケにいったことや世界情勢について語っても親しみを増す。人柄なのだ。あとダギーも非常に素晴らしい声でリードを取ったり、コーラスしていたのも印象に残った。

Travis 今でも演奏されている数少ないトラヴィスのハードにロックする曲である「オール・アイ・ウォント・トゥ・ドゥ・イズ・ロック」、そして染み入るバラード「ターン」で本編を締める。アンコールは先述の「フラワーズ・イン・ザ・ウィンドウ」でフランがひとりでてきて、メンバーが戻ってきて「マイ・アイズ」、みんなが踊る「マグニフィセント・タイム」。最後はやっぱり定番「ホワイ・ダズ・イット・オールウェイズ・レイン・オン・ミー?」だった。それまでに会場の期待に応えてきたバンドが最後にプレゼントしたのは「いつもの」だけど、これを待っていたわけだし、その信頼感を確かめたライヴだった。メンバーが去り、場内が明るくなって、再びピーター・ゲイブリエル「スレッジハンマー」が流れた。

— set list —  

Everything at Once / Sing / Selfish Jean / Writing to Reach You / Love Will Come Through / Driftwood / Animals / Re-Offender / Side / Where You Stand / Moving / Paralysed / Closer / All I Want to Do Is Rock / Turn

— encore –(原文ママ)  
Flowers / My Eyes / Magnificent Time / Rain

Travis


テスタメント (Testament) @ 渋谷オー・イースト 2017.02.20

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イントゥー・ザ・サークル・ピット

Testament
Testament
Testament
Testament
Testament
Testament
Testament
Testament
Testament

アウトサイドヨシノ (outside yoshino, 吉野寿) @ 熊谷 モルタルレコード 2017.01.15

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親密感と緊張感のコントラスト
フォトレポート @ 熊谷 モルタルレコード 2017.01.15

outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino
outside yoshino

 会場のモルタルレコードは、埼玉の熊谷駅から徒歩5分ほどのところにある。1階がCDやグッズなどを販売する店舗で、2階はイベントスペース。店長の山崎さんはライヴの企画も手掛けており、音源ダウンロードのみでは得られない、音楽とのリアルな出会いを提供している。ツイッターや公式サイトでライヴのスケジュールはアナウンスされるので、気になるライヴがあったら、ぜひ訪れてみてほしい。居心地のよい、木造の空間で聴く生演奏は、ライヴハウスとは異なる素朴な味わいがある。

 チケットが早々にソールド・アウトしたこの日。地元と、近隣の都県から集った観客が板張りの床にギッシリと座り、イースタンユースのギター/ボイス担当、吉野寿のソロ・プロジェクト、アウトサイドヨシノ(outside yoshino)のライヴの開始を待っていた。吉野がここで演奏するのは、2015年8月以来である。

 2017年初めてのライヴ、まだ窓から陽の光が差し込む15時開演ということもあり、ステージに登場した吉野の第一声は「あけましておめでとうございます」。「変な感じだね。明るいっていうのが、また変な感じなんだね。村の寄り合いみたいな。時代が時代なら、ここで血判状押して、百姓一揆みたいな感じになってますけれども」と、場の雰囲気を語る。

 ギターで余韻たっぷりにオクターブを響かせ、いつも1曲目に演奏されることが多い「片道切符の歌」からライヴは始まった。板張りの床にふみ鳴らす足音が、観客の身体にダイレクトに響く。ソロとイースタンユースの曲を織りまぜながらライヴを進め、入魂のギターの音色と歌声で、観客を引き込んでいく。歌に心を奪われるあまり、曲間の飾らないMCとのギャップにイマイチついていけない様子の観客に向かって、「固い。全然固い。ダイブするか?」と語りかける場面もあった。前半のクライマックスは、絞り出す叫びが鬼気迫る「ナニクソ節」。そして、「わかってもらえるさ」「いい事ばかりはありゃしない」のRCサクセションのカヴァー2曲で締めた。

 後半は、冴える冬の空気を象徴するように「東京快晴摂氏零度」から再開。イースタンユースの代表曲の中に、小谷美紗子の「眠りのうた」と、西岡恭蔵の「君の窓から」のカヴァーが胸に染み渡る。「念力通信」以降、「こっからが地獄だからね」と語って吉野の歌とギターはさらに凄みを増し、アンコールの「ズッコケ問答」と「街の底」が終わると、盛大な拍手が沸き起こっていた。

 開場時から吉野のセットの後方の壁には、A4サイズほどの紙にプリントされた、シカゴ・ブルースの父と称されるギタリスト、マディー・ウォーターズの写真が貼られていた。吉野は「夜の追憶」の演奏前に「あの写真、実はここにも貼ってあるって知ってた?」と、その写真が吉野の正面の鴨居の上にも貼ってあることに触れる。写真についてそれ以上の言及はなかったが、種明かしをすれば、吉野が気に入ってスマホに保存していたマディー・ウォーターズの画像を、当日のリハーサルの時に山崎さんがプリントしてあげて、壁に貼ったものなのだった。

 ヴィンテージ感あふれる会場の雰囲気。お気に入りの写真を気軽に自室に貼り付けたような、マディー・ウォーターズのプリント。セットリストを決めずに次の曲をその場で選んでいく、ソロライヴのスタイル。徐々に暮れていく、大きな窓から差し込む自然光。日が暮れて、裸電球の光に浮かぶ、吉野の存在。それらが醸す、吉野と観客が一対一で向き合うような親密感と、しかし決して馴れ合わないピンと張り詰めた緊張感のコントラスト。年明けだからといって特別なことはない代わりに、観客は一瞬一瞬をかけがえのない時間として、胸に刻んだのだった。

— set list —
片道切符の歌 / わたしの青い鳥 / 青すぎる空 / 月の明かりをフラフラゆくよ / ファイトバック現代 / ナニクソ節 / わかってもらえるさ / いい事ばかりはありゃしない / 東京快晴摂氏零度 / 街はふるさと / 故郷 / 眠りのうた / 君の窓から / 念力通信 / 夜の追憶 / 夜明けの歌 /

— encore —
ズッコケ問答 / 街の底

ハバナ @ 福岡キースフラック 2017.02.25

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2017年、始動の雄叫び
フォトレポート @ 福岡キースフラック 2017.02.25

Habana
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 ロックと民族楽器を融合した唯一無二の音楽で、福岡を拠点に活動するハバナ。現在セカンド・アルバムを製作中という彼らが、2017年最初のライブを敢行した。ステージは彼らのホームと言っても過言ではない、福岡キースフラックでのワンマン。地元でも久々のライブとあって、ライブ開始前には期待感で膨れ上がった会場。メンバーの鳴らす音のうねりと共に人の波も大きくうねり、決してぶれないハバナの世界観にフロアは染まっていった。

アウトサイドヨシノ (outside yoshino, 吉野寿) @ 山形 肘折国際音楽祭 2017.03.05

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暗闇で燃え上がる真骨頂
フォトレポート @ 山形県 肘折国際音楽祭 2017.03.05

outside yoshino
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 3月4日・5日の2日間開催された肘折国際音楽祭は、山形県最上郡大蔵村にある肘折温泉で行われた。肘折温泉へ東京から行くには、新庄駅まで新幹線で3時間超。そこからさらに、バスで1時間。雪深い山間の、湯治場として知られる温泉街で行われたこのイベントに、国内外から合計12組のアーティストが出演した。ライヴのみではなく、ステージ転換中には郷土料理が振舞われたり、会場近くの旅館の温泉巡りも楽しめるなど、地域の特色を存分に生かした音楽祭だった。

 イースタンユースのギター / ボイス担当、吉野寿によるソロ・プロジェクト、アウトサイドヨシノ(outside yoshino)は、2日目のトリ前、予定の15時20分より少し早めに演奏を開始した。ほぼ真っ暗なステージで、一灯の裸電球の光に照らされた吉野。顔が影になっているため、客席からはその表情をとらえるのも難しい。挨拶も手みじかに、「月の明かりをフラフラゆくよ」からスタート。しみじみとした曲調とともに、観客は暗闇に溶けるように吉野の歌に引き込まれていく。

 ビールの缶をギターの弦に接触させて、軋んだ不協和音を奏でたかと思えば、パッとクリアな音色に切り替わり、「裸足で行かざるを得ない」に入る。テンポを落とし、毅然と歌われるAメロ、ギターでスピード感を加えていくBメロ、サビでの咆哮、激しくギターを打ち鳴らす間奏へと、一曲の中で目まぐるしく表情が変化する。「夜明けの歌」は、噛みしめるように歌う序盤から、叫びが胸に迫る終盤への展開で圧倒した。

 イースタンユースの代表曲2曲をソロならではのアレンジで披露し、吉野はステージ上からスタッフにビールのお代わりを所望。フロアの空気が笑いとともに少しゆるむ。「まさかみなさん、弱いものから順に死んでいって、当然だって思っていないでしょうね?」とフロアに問いかけて「ファイトバック現代」が始まれば、再びピリッとしたテンションが張りつめる。

 二宮ゆき子の「まつのき小唄」、島倉千代子の「人生いろいろ」のカヴァー2連発は、風情たっぷりの温泉街で聴くからか、いつにも増して濃厚な哀愁が漂う。「最後に一発、大騒ぎして帰りますわ」と言い捨てて、ラストは「有象無象クソクラエ」。チューニングが終わるなり、吉野はイントロから爆音かつ攻撃的な音色でギターを奏でる。怒りに満ちた歌は暗い空間を大炎上させ、全てを焼き尽くすような激しさだった。

 この音楽祭では、2日間ともタイムテーブルに、観客が温泉に入るための時間が設けられていた。ちょうど吉野はその温泉タイム明けの出番だった。もし、風呂から上がってリラックスしながらライヴを観ようと思っていた観客が居たとしたら、その強烈な演奏にビックリしたかもしれない。吉野は容赦なく己のスタイルを貫き通し、結果的に出演アーティストのなかでも、異彩を放つことになった。しかし、このブレなさこそが、吉野の真骨頂なのだ。そういう意味では、この日も本領を大いに発揮したと言えるライヴだった。

— set list —
月の明かりをフラフラゆくよ / 裸足で行かざるを得ない / 夜明けの歌 / ファイトバック現代 / まつのき小唄 / 人生いろいろ / 有象無象クソクラエ

キングブラザーズ @ 神戸バリット 2017.03.25

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何もかも同じではない19年
フォトレポート @ 神戸バリット 2017.03.25

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キングブラザーズ
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 ザ・ニートビーツ結成20周年、キングブラザーズ結成19周年を記念したイベントが神戸バリットで行われた。先行は、イベントで最初に演奏するのが珍しいキングブラザーズだ。この日、暗転するもおなじみのSE、アンドレ・ウィリアムスの「ザ・ブラック・ゴッドファーザー」は鳴らず、静寂を割るように鈴の音が響いた。歌うようなゾニー(Dr)のドラムと共にステージを覆っていた緞帳が開くと、片手にハープを持ち、片手でタンバリンを打ち鳴らすケイゾウ(G/Vo)が「19周年と20周年を祝うパーティへようこそ」と口火を切った。この「シンパシー・フォー・ザ・バツバツバツバツバツ(Sympathy For The XXXXX)」はブルージーなマーヤ(G/スクリーム)のギターしかり、今の3人の個性が際立つ名刺代わりのような楽曲だ。
 
 「ビッグ・ビート」「魂をうりとばせ」「ゲット・アウェイ」と、違う夜にはピークをもたらせるだろう曲たちが、この夜はさらりとフロアを温める役割を担う。「☆☆☆☆」を挟むのは、去年生まれた「ソング6」と「ソング7」で、途切れることなく演奏されたこの3曲の交じり合うグルーヴに、フロアは次第に熱を帯びていった。

 「ありがとう」と控えめな声でつぶやいたケイゾウが次の瞬間「スパイボーイズ!」と叫ぶと、ガッと見開く客の目がいくつも見えた。「今からおもくそ行くぞ!」とマーヤが絶叫するやいなや客に飛び込むと、フロアの温度は沸点へと動き始める。この奇をてらうことのない緩急のついたセットリストの凄味に、このバンドが培ってきた19年のドラマが詰め込まれているように感じた。

 「ソング8」では客に担がれたままギターを弾くマーヤを、ケイゾウは西宮の誇りだと称える。「どんどんぶっこんでいくからよろしくお願いします、マッハ・クラブ」こんな丁寧なケイゾウのMCで客は狂喜し、一層ステージへと前のめる。「どうでもいい事ばかりで退屈な欠伸がとまらない」と唸り心の限り叫ぶ、ケイゾウの揺るぎなさに19年ブレはない。

 短い「マッハ・クラブ」に間髪入れずマーヤが「ダダダッダダ8っつ数えろ」と叫び、「8っつ数えろ」へと続く。マーヤのカウントが差し込まれるサビのフレーズで沸点を迎えると、頭上で何度もスティックを大きくクロスさせながらリズムを打ち出すゾニーが殊更絵になる「のりおくれんな」が投下される。バンド加入後、黒シャツに白ネクタイだったゾニーが、この日ケイゾウとマーヤと並び、白シャツに黒ネクタイという出で立ちで現れた意味を想うも、マーヤのキレキレのスクリームに重なるケイゾウの切り込むギターに、ステージから視覚聴覚をこれでもかと刺激される息もつけないステージングに、頭はうまく働かない。

 最後の曲「キング・オブ・ブギー」を含め、後半を大きく占めたのがバンドの初期ナンバーであることに、ただただ絶句する。キングブラザーズらしさは19年前から何も変わらないのに、何もかもがまるで違う。違っているから今が最高だといい切れるほど、彼等は日々進化し続けているのだ。

— set list —
Sympathy For The XXXXX / 魂を売り飛ばせ!/ GET AWAY / Song6 / ☆☆☆☆ / Song7 / スパイ・ボーイズ / Song8 / マッハ・クラブ / 8っつ数えろ / のりおくれんな / King of Boogie /


3月31日(金) @東京, 町田SDR 『忘れてモーテルズ vs KING BROTHERS』
4月1日(土) @千葉, 新松戸ファイヤーバード 『新松戸ファイヤーバード10周年イベント』
4月2日(日) @下北沢THREE『撃鉄 vs KING BROTHERS』

 詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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