三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花
テキストレポート「三者三様、孤高の求道者たちが散らす火花」 – 竹原ピストル、般若、MOROHA in 宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」 @ 新宿ロフト 2016.12.21
2016年、年末。18周年を迎えたタワーレコード新宿店と宮川企画「マイセルフ, ユアセルフ」が贈る、スリーマン・ライヴが新宿ロフトで行われた。出演はモロハ(MOROHA)、般若、竹原ピストル。’16年6月に取材した下北沢シェルターでの「マイセルフ, ユアセルフ」のラインナップに匹敵する、強力な布陣である。満杯のフロアの期待を受けて登場したトップバッターは、モロハ。序盤から「革命」「それいけ! フライヤーマン」を尋常ならざるテンションで放ち、3曲目の冒頭、MCアフロが観客に問いかける。
「俺たち皮切りに、残りふた組でてくるんだけれども、どんなの期待して来ました?」
「みなさん、3組でてくるって、この状況の上で、『ワンマンを3回見た』みたいなライヴが観たいのか。それとも、今日、この3組だから見れるようなライヴが観たいのか。一体、どっちですか。訊くまでもないっすよね。もちろん、この3組だから起こり得るような事件やドキドキやドラマが観たいと、そう思ってみなさん来たんですよね?」
「そのとおり!」と言わんばかりに、フロアから大きな拍手が沸き起こる。「じゃあ、一番手の役割ってのは何なのか。先輩ふたりに火をつけることだと思います」「生意気言うのが仕事だと思っております。今日の出順はカッコイイ順で決めました」と般若と竹原ピストルへの挑発の言葉を次々と放ち、さらなる歓声を呼んだうえで、キレッキレの「俺のがヤバイ」に突入する流れは鳥肌ものだった。
メロウな「ハダ色の日々」と、絞り出すような声が胸に迫る「トゥモロー」では、情感をたっぷり込めたアフロのリリックに、ギタリストのUKが奏でる緻密なリフがやさしく寄り添い、コンビネーションの妙に深く引き込まれる。かすれ気味の声でのアフロの独白から始まった「三文銭」は、ギターが刻むリズムとともに駆け出していく。「28歳、3枚目のアルバムをリリース 新宿で最高のスリーマンができる!」とリリックを変えるとフロアが瞬時に盛り上がり、終わり際にUKが静かに残す余韻も格別だった。
「忘年会で忘れたいこと、忘れられないよね。しょうがないから連れていくよ。辛いことも、悲しい記憶も、連れていってやるよ」とアフロが語った「ゴールド」。「大丈夫 大丈夫」のフレーズが繰り返される瞬間、この1年に積み重なった憂いがスッと溶けていくような抱擁感がもたらされる。
「やっぱりラッパーたるもの、あれ、できなくちゃなって」
アフロはこの日の意気込みを見事なフリースタイルで披露。勢い余って床に崩れ落ちるアフロを拍手と歓声が包み、最後の曲「四文銭」へ。アウトロでは「50分間、お付き合いいただき、ありがとうございました! どうか、また会う日まで。それぞれの人生で、命を懸けて! 命を描け!」と、渾身のシャウトが響く。ドラマチックなUKのギターに乗せて、たたみかけるアフロの叫びに、何度も歓声が沸く圧巻の締めとなった。
わずかな転換時間をはさみ、ステージが暗転して般若が登場。1曲目の「人間をきわめろ」から、ストイックな佇まいに息を飲む。「自己紹介」ではリズムに乗せてフロアが揺れ、「路上の歌」でさらに加速度がついていく。「土足厳禁」の冒頭で「悪いな、音楽やりに来てねえんだ。俺、ケンカ売りに来てんだよ!」と啖呵を切ってみせると、一層歓声が大きくなった。「はいしんだ」までを一気に駆け抜けたぶん、「家族」「なにもない」での、赤裸々に吐露されるリリックが際立ち胸に刺さってくる。この2曲では狂おしさに満ちたパフォーマンスにフロアは静まり返り、拍手することすらはばかられる緊張感が張り詰めた。
「フライ」以降は、観客とともに盛り上がる曲を次々とつないでいく。「サイン」の超高速ラップに圧倒されていると「疲れちゃった」とつぶやいて中断。ロフトにまつわる思い出を語る。
「俺、18年くらい前に新宿ロフトに、いろんな諸事情があって、ここに喧嘩しにきて、俺ら10人で素手で来て、80人くらいにぶっ潰された思い出しかないんだ。誰とは言わないけど、うん。でも結局残ってんの、俺だけだった」
その言葉に観客が沸くなか、今度はバックトラックなしで「サイン」の後半へ戻っていく。リリックを言い切るや否や「どうすか、新宿?」とフロアを一瞥。本物のスキルとカリスマを携えるラッパーのみが持ちうる、有無を言わせない迫力がある。「ライフ」以降、「あげろ、ロフト、拳をあげろ!」と観客を煽り、フロアを大きく揺らした「スーパースター」まで、さらにエモーショナルに白熱していく。
「音符も読めないし楽譜も読めないし、かじりついてここまで来たけど、本当に言い方が悪いんですけど、別に音楽をしに来てるわけじゃありません。僕は喧嘩をしに来てるつもりでいつもやっています。おっかないです、ライブやる前は。本当に怖い気持ちです。僕のこと知ってる人も知らない人も、今日初めましての人も、出口出たら忘れてやってください。たまに1年に1回くらい思い出してやってください。お願いします」
「別に深夜番組で『お前はああだ、いやお前はこう言った』とかああいう番組でやっているのはニセモンなんで。本当の顔じゃありません。こうやって目の前にいるのが本物のアレです。38年間チンポぶら下げてきた男が、ここにいます」
抑揚をおさえた早口で語る般若は、反骨精神をのぞかせつつ、思いの外実直に映る。TV番組『フリースタイル・ダンジョン』での大物ラッパーとしての華やかなイメージを持つ観客は、この晩、彼の生身の姿を胸に刻んだことだろう。
「感極まっちゃった。本当に今、昔を思い出しちゃった」と一旦やり直したラストの曲、「あの頃じゃねえ」のクライマックスは、満場のコール・アンド・レスポンスが空間を満たし、「また来年、懲りずに映画とドラマ出ます」の言葉に歓声があがる。般若は「トレーニングしてる人、どこ?」と声をかけながら、着用していたリーボックのTシャツをフロアに投げ入れて鍛え上げられた肉体を晒し、「あばよ、二度と会わねえよ!」と、とどめの悪態をついてステージを去る。
DJフミラッチ(DJ FUMIRATCH)がプレイするトラックが終わると、フロアから般若へ惜しみない拍手が送られた。王者の風格漂う、完璧なステージだった。フロアにはヒップホップに馴染みの薄い観客と、合いの手や声援など、般若のパフォーマンスにシンクロした熱い反応を見せる常連客が混在していたが、般若は今を限りと言わんばかりの気迫で、空間を丸ごと制してみせたのだった。
トリを飾った、竹原ピストル。序曲としての「ドサ回り数え歌」。ギターの音色と、ザラザラとした感触と、ぬくもりをたたえた声の歌い出し。そのたった数秒で、ステージ上に竹原の存在感が生々しく立ち上る。続いた「フォーエバー・ヤング」では力強く伸びる声と、リズムをとりながらの歌唱が鮮烈に刻みつけられる。屈指の人気曲「ライヴ・イン・和歌山」は、始まった途端にフロアから歓声があがった。竹原が歌う「お前」へ向けた思いやりと「薬漬けでも生きろ!」のフレーズは、やはり何度聴いても強く心に響く。
力強く歌われた「レイン」。観客の手拍子とともに弾むように演奏された「みんな〜、やってるか!」は、サビを竹原とともに口さんでる観客も多い。終わって観客が口々に声援(和生〜、とか、ピーちゃん! などというものも混じっていた)を送ると、「呼び名を統一してください。できれば」と返して会場は笑いに包まれる。
「ポーグスっていう大好きな外国人のバンドさんがいて、シェインさんはそのポーグスのボーカルの、酒好きタバコ好きのオジちゃんです。自分の出番前、そわそわして緊張しているときに聴きたくなるバンドなんですが」
と前置きして、「マスター、ポーグスかけてくれ」。最近できた曲だという「ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!!」が続く。どちらも竹原の極私的な一場面を切り取ったと思われる歌詞だが、実に「聴かせる」曲に仕上げられていることに恐れ入る。「ボクサーだった頃の名残みたいな曲」と語り、ハーモニカを響かせ「カウント10」。対照的に、膨大な量のライヴをこなす現在の日々を歌う「キャリーカートブルース」。「俺のアディダス」は、ライヴが佳境に突入したことを示すように、熱を帯びて歌われる。この流れで、「カウント10」で歌われたボクサー時代から燃やしてきた竹原の不屈の闘志は、いまもなお竹原の内に輝き続けていることがわかる。
緩急たっぷり、味わい深く歌われた「よー、そこの若いの」から、「ちぇっく!」を一気に駆け抜ける。演奏が終わり、「ちぇっく!」について「ラッパーさんがマイクのチェックをすることについて、ちょっかい出してる歌ではないということを、今日は特に声を大にして言っておきたい」「先々月くらいに沖縄で地元のラッパーさんがたに絡まれ囲まれ、すごい怖い思いしたんすよ」「もしも今日を境に僕が音楽業界から姿を消したら、般若さんに刺されたと思ってください」と語って観客を笑わせる。
「うっかり気を抜けば、これが最後のステージになっても悔いはないなって、ついつい思ってしまいそうになるくらい、般若さんと共演できたこと、本当に嬉しかったです」
と般若に礼を述べたところで、ステージ袖から「そいつら(=沖縄の地元のラッパーさんがた)探して、やっときますんで」と般若が竹原へ絶妙なタイミングで声をかけ、場内が一斉に沸く。
本編を「アメイジング・グレイス」、竹原の十八番「ファイト!」の名曲2曲で締め、大喝采の中「竹原ピストルでした、ありがとうございました! 宮川くん、いつも心臓に悪いブッキング、ありがとう!」との言葉を残して、一旦ステージを降りる。
熱烈なアンコールを求める声援と手拍子に応え、再び登場した竹原。中盤に演奏した「ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!! 」の「友達のラッパーに韻の踏み方習ったんだ」というフレーズについて、「友達のラッパー」とは、モロハのアフロであることを告白する。
「(アフロにメールで韻の踏み方を習って)なるほどな、こういうことか、難しいな〜と思いつつも、『狼煙』というポエムを書いてきたんで、アフロ先生に宿題提出するような気持ちも込めつつ、一個ポエム読んでみようかなと」
ポエム「狼煙」は、丁寧に韻が踏まれているが、竹原のヒリヒリとしたハングリー精神を映し出し、観ているこちらも胸の底から熱い想いがこみ上げてくる。高揚したフロアからは、1フレーズ毎に歓声があがっていた。ラップのようなポエトリーリーディングを終え、「いつの日か、俺のがヤバイ! になってみせますからね」とモロハの曲のタイトルで笑いを誘いつつ、「そんな親友、アフロに」と捧げた最後の曲は「浅草キッド」。しみじみと染み渡るメロディーと、この日の出演者3組に向けられた割れんばかりの拍手喝采とともに幕を閉じた。
モロハの観る者の胸を締め付けるひたむきさ、般若の己を超えていく強靭な野生、竹原ピストルが全身全霊を賭けて放つ衝撃。三者三様のやりかたで「人生の戦い方」を追い求める孤高のアーティストたちがバチバチと散らす火花が火種となり、観客の心に決して消えることのない火を灯した夜。’16年の締めにふさわしい、凄まじいスリーマン・ライヴだった。
— set list (MOROHA) —
革命 / それいけ! フライヤーマン / 俺のがヤバイ / ハダ色の日々 / tomorrow / 三文銭 / GOLD / 四文銭
— set list (般若) —
人間をきわめろ / 自己紹介 / 路上の唄 / 土足厳禁 / はいしんだ / 家族 / なにもない / FLY / 目黒川 / 関係あんの? / やっちゃった / サイン / LIFE / 世界はお前が大ッ嫌い / スーパースター / あの頃じゃねえ
— set list (竹原ピストル) —
ドサ回り数え歌 / Forever Young / LIVE IN 和歌山 / RAIN / みんな〜、やってるか! / マスター、ポーグスかけてくれ / ねぇねぇ、くみちゃん、ちぇけらっちょ〜!! / カウント10 / キャリーカートブルース / 俺のアディダス / よー、そこの若いの / ちぇっく! / Amazing Grace / ファイト!
— encore —
ポエム『狼煙』 / 浅草キッド
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