20年の歳月とともに育んだハードコアの結晶
テキスト・レポート「20年の歳月とともに育んだハードコアの結晶」 @ 名古屋アップセット 2013.06.08
「なんやかんやでバンド始めてから20年が経ちました。(中略) 40歳になりました僕等。」
Vo.深川が軽そうに語っていた言葉の裏には、重い歴史が詰まっている。envy(エンヴィ)の結成20周年(前身バンドのBlind Justice(ブラインド・ジャスティス)期を含んでの結成20年ということ。)を記念した東名阪ツアー、2か所目となる名古屋公演である。今や日本のハードコアを代表する存在として、世界を舞台に活躍していることはご存知の方も多いだろう。光と希望が差す激情系ハードコア・サウンドは人々の胸を打ち、メディアに大きく露出はしないものの、地道に活動を続けて自らの道を切り拓いてきた。海外勢でもアイシスやモグワイ等を始めとして、彼等を称賛する声は多く、フジロックへも2006年、2011年と2度の出演を果たしている。
名古屋ではおそらく初のワンマン公演ということもあり、その歴史を見届けようと会場はかなりの人々で埋め尽くされていた。それこそ、エンヴィの歴史をずっと見てきたかのような人もいれば、バンドと同い年になる20歳ぐらいの若者もいたし、おそらく彼等とステージで共演したことがあるバンドマンも中にはいたことだろう。それぞれに想いは当然あるだろうが、本日の特別なステージに寄せる期待は、非常に大きなものがあったと思う。
今か今かと開演を待ちわびる中、定刻から15分が過ぎたところでSE「ゼロ」が流れ出す…。かと思えば、「先導」や「安らぎが君の名を呼ぶように」、「限りあるもの」といった曲の断片が次々と耳へ飛び込んできて、大いに期待が高まっていく。そして始まりの曲は、誰もが予想していなかった「罪」である。もう今から15年以上も前の楽曲であり、初期衝動全開で突き進む鮮烈のハードコア・サウンドで会場のボルテージを一気に上げる。それから「覚醒する瞳」,「左手」,「死んだ君に」と畳みかける様に10年以上前の楽曲を続けて繰り出していく。ステージから放たれる全身全霊の演奏と咆哮は、強烈の一言。まさかこんなライヴの展開が待ってるとは驚きで、この先も何が飛び出してくるのかまるで予想がつかない。
一呼吸置いてからの「深く彷徨う連鎖」から「風景」までは、近年のエンヴィのライヴに欠かせない楽曲が続いた。特に「風景」におけるポストロック風の美しい静寂、激しい轟音の交錯は、現在の彼等の音像の象徴ともいえるもの。だが、本日のライヴにおいて強烈な印象を残したのは、ハードコア色の強い初期の楽曲だろう。
特に1stアルバム「From Here To Eternity(地上より永遠に)」からの楽曲が多く、40歳の体に鞭打って…というよりは、若返ったかのようなテンションと情熱で衝動的なハードコアを掻き鳴らす姿には驚かされた。「震える」においては、上手のギタリストの河合がコーラスで叫ぶという今までに見たことも無いシーンも目の当たりに。昨秋に行われた美重音フェスの「リーヴ・ゼム・オール・ビハインド 2012」に出演した際は、2ndアルバム『君の靴と未来』を全曲演奏するという試みも行っているが、今回のツアーでは初期の楽曲をキーにして、20年の歴史が凝縮されている。
「なんだか色々あったんですけど、あっという間でしたね20年なんて。僕たちは色々ついていて、インタビューとかの露出は一切しないで活動してきたなかで、色々な人に恵まれたので、ここまでやってこれました。海外でライヴができたり、大きい会場で演奏できたり、本当に恵まれているバンドです。」
と深川はライヴ終盤のMCで静かにこう述べた。思えば、インターネットが発達する以前から地道に活動を続けてきたバンドである。音源やライヴ活動を通して、エンヴィという存在が徐々に口コミで広がり、それが大きな輪となって今では海外からも頻繁に声がかかるほどの存在にまでなった。「人づてに伝わっていくのが理想」と彼はその後のMCで述べていたが、真摯に音楽と向き合い、己の道を信じてきたからこそ今のエンヴィがある。
ライヴは終盤の「擦り切れた踵と繋いだ手」からの展開がまさに圧巻で、「限りあるもの」,「狂い記せ」,「暖かい部屋」という代表曲が大きな感動を生んでいた。絶対的な美しさと激しさが見事なコントラストを描き、深川が紡ぐポエトリーリーディングと咆哮が胸の奥に突き刺さる。特に、全身から感情が溢れだすような「狂い記せ」は、いつ聴いても涙腺が緩んでしまう。そして、いつも通りに「暖かい部屋」でライヴが締めくくられると思っていたら、美しい余韻をかき消すかのように初期のハードコア曲「存在の証明」が一閃。会場の熱気をさらに高めて本編を終了した。
「バンドを始めた当初は、オリジナルの曲もよくわからなかったのでカバーばっかりやってたんですね。当時は、ニューヨーク・シティ・ハードコアが凄い大好きで色んなバンドをカバーしてて。それからオリジナルをやるようになったんですけど、エンヴィになってから唯一カバーした曲があって、それをやります」と説明し、Constatine Sankathi (”コンスタティン・サンカティ”とおそらく読む)の「Esoteric(エソテリック)」をアンコール1曲目でカバー。当時の情熱を燃やしながらの白熱の演奏で、大いに盛り上げてくれた。そして、壮絶なまでのステージを締めくくるのに選ばれた曲は、1stアルバムからの「刻まれた数字」。赤い照明に包まれながら最後の力を振り絞るように叫び、演奏する5人の姿は非常に印象的だった。
こうして、全19曲約100分にも及んだライヴは幕を閉じた。20年の重みを肌で感じるステージであり、個人的にこれまでも彼等のライヴは何度となく拝見しているが、その中でも本日は特別な感動を持つものだったように思う。改めて、素晴らしい一夜となった。
「50歳になってこの音楽は、さすがに無理かもしれないと思ってるけど、できるかぎりはがんばるつもりでいます。」という発言もあったが、「まだ20年」とお客さんの一人が叫んだように、希望の灯となる彼等の音楽を必要とする人は世界中に大勢いる。これからもエンヴィとして歩み続けていって欲しい。そう願うばかりだ。
— set list —
罪 / 覚醒する瞳 / 左手 / 死んだ君に / 深く彷徨う連鎖 / さよなら言葉 / 静寂の解放と嘘 / 風景 / 安らぎと謎 / 天使の呪い / 鉛の羽根 / 震える / 擦り切れた踵と繋いだ手 / 限りあるもの / 狂い記せ / 暖かい部屋 / 存在の証明
— encore —
Esoteric(Constatine Sankathi Cover) / 刻まれた数字